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研究概要

分子生物学と生物情報学を駆使した、最先端のRNA創薬

 

 

 

 

 

 

 

. 長鎖ノンコーディングRNA(lncRNA)の魅力

 長鎖ノンコーディングRNA(long non-coding RNA 、略称: lncRNA)はRNAの一種です。このRNAは一般的に、タンパク質への翻訳が行われない200ヌクレオチド以上の長さの転写産物として定義されています。つまり、これは遺伝情報をコードしているわけではなく、タンパク質としての機能を持たないRNAです。これらのlncRNAは細胞内で多様な役割を果たしていることが近年明らかとなってきており、遺伝子の発現の調節(HOTAIR)、細胞の構造の維持(NEAT1)、病気の進行(MALAT1)、といった重要な生物学的プロセスに関与していることが示唆されています。しかしながら、数万種類と推定されるlncRNAの機能解明はほとんど進んでおりません。
 lncRNA研究の魅力は、その未知の多様性と機能の探求にあります。遺伝情報の大部分がコードされていないRNAとして存在し、これがどのように細胞や組織の機能に関与しているのかを解明することは、生物学の新たなフロンティアともいえます。lncRNAは、遺伝子の発現調節やクロマチン構造の維持、さらには細胞の運命決定など、多くの生物学的プロセスに関与していることが示唆されています。また、多くの疾患との関連も明らかになってきており、治療のターゲットとしての可能性も持っています。このように、lncRNAの研究は、生命の本質を理解する上での新しい視点を提供してくれるだけでなく、医学・薬学的な応用にも寄与する可能性があります。

 我々のチームでは、このlncRNAに着目して研究を進め、lncRNAの機能解明や次世代のRNA創薬を目指して研究を行っています。

「現在進行中の研究テーマ」

・マウス肝臓の肝硬変移行におけるlncRNAの変動解析(共同研究)

・マウス細胞を用いた活性酸素化合物暴露時におけるlncRNAの変動解析(共同研究)

・ヒト細胞を用いた細菌・ウイルス感染時におけるlncRNAの変動解析

​・ヒト細胞を用いたlncRNAに関与する免疫応答遺伝子群の変動解析

1.  ヒト・マウスを対象としたlncRNAの機能解明

 ヒトとマウスのゲノムは約99%一致しており、lncRNAについても共通点が多いことが分かっています。しかし、種によってlncRNAの発現量や機能が異なる場合もあり、ヒトとマウスの比較研究は、lncRNAの機能をより深く理解する上で重要となります。さらにlncRNAは、様々な疾患に関与していることが示唆されています。例えば、がん、神経変性疾患、自己免疫疾患など、多くの疾患においてlncRNAの発現異常が見られます。そのため、lncRNAを調べることで、疾患の診断・治療法の開発に役立つことが期待されます。さらに、lncRNAの機能を制御することで、細胞機能を調節し、新しい治療薬を生み出すことを目指します。

2.  LLPS(液-液相分離)・酸化ストレス・RNAスプライシング異常

 LLPS(液-液相分離)、酸化ストレス、RNAスプライシング異常、という3つのキーワードに焦点を当て、lncRNAとの関連性を解き明かしていきます。①LLPS(液-液相分離)は、細胞内で特定の分子が凝集し、液滴状の構造を形成する現象です。近年、lncRNAはこの液滴構造の形成に関与し、細胞機能の調節に重要な役割を果たしていることが注目されています。②酸化ストレスは、活性酸素種による細胞のダメージを指します。lncRNAは、酸化ストレス応答に関与する遺伝子の発現を調節し、細胞を保護する役割を果たしていることが分かっています。③RNAスプライシング異常は、遺伝子発現の異常を引き起こす重要な原因の一つです。lncRNAは、RNAスプライシングに関与するタンパク質と相互作用し、スプライシング過程を調節することが示唆されています。これらの3つのキーワードを軸として、lncRNAが細胞内でどのように機能し、生命現象にどのような影響を与えているのかを解明します。

 3.  機械学習を駆使したRNA-タンパク質相互ネットワーク解析

 機械学習は、膨大な量のデータを解析することで、人間の脳では見逃してしまうような複雑なパターンを自動的に学習することができます。この技術をlncRNAの研究に活用することで、従来の研究手法では解明できなかったlncRNAの機能や作用機序を明らかにすることが期待できます。具体的には、機械学習を用いてlncRNAとRNA結合タンパク質との相互作用を予測するシステムを開発することで、これまで未知だったlncRNAとRNA結合タンパク質の相互作用を多数発見することを目指します。lncRNAは、生命の謎を解き明かすための重要な鍵となる可能性を秘めています。深層学習という新たな武器を手に、lncRNAの神秘のヴェールを剥がしていくことを目指します。

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「これまでの主な研究成果」

★総説PDF(無料で公開されています)

・蛍光色素及び修飾核酸を利用した生体分子解析技術の開発とその応用(2019年)LINK

・ノンコーディング RNA 動態解明の最前線(2016年)LINK
・蛍光消光現象を利用した遺伝子定量技術の開発(2010年・野田尚宏 博士 著)LINK

テーマ 1 :ヒトiPS細胞等を用いた医薬品等の化学物質の生体影響評価技術の開発
 医薬品等の化学物質の生体影響評価には動物試験が行われていますが、倫理等の問題から、動物試験を低減する新規技術の開発が国際的課題となっており、これを解決する手法として細胞試験が注目されています。そこで我々は、ヒトiPS細胞に着目しました。ヒトiPS細胞は、各組織・器官への影響評価が可能ですが、培養・評価には最先端のテクニックが必要です。そこで我々は試行錯誤の末、ヒトiPS細胞を用いた薬剤暴露試験系の確立に成功しました。本成果は、医薬品の安全性・毒性を正確かつ迅速に評価でき、今後の製薬業界に大きく貢献することが期待できます。


テーマ 2:細胞試験におけるlncRNAの有用性の発見
 近年、新たな生体分子として注目を浴びているlncRNAに着目して、細胞試験における有用性を評価しました。まずlncRNAは、mRNAよりも医薬品に対して鋭敏に反応するのではないかと仮説をたて、次世代シーケンサ、及び、情報学を駆使することで、本仮説の実証に成功し、lncRNAが医薬品バイオマーカー(細胞毒性を有する医薬品に反応するlncRNA等)として有用であることを証明しました。これは、将来のAIを駆使したRNA創薬の基本となる成果です。


テーマ 3:蛍光RNAプローブを用いた医薬品等の化学物質の安全性評価手法の開発

 テーマ1、2の成果より、医薬品等の化学物質を細胞に暴露すると、RNA分解が抑制されることを見出しました。そこで、医薬品の安全性についてRNA分解を指標とするアイディアを考案し、分解に応答する蛍光RNAプローブを設計することで、医薬品の安全性を迅速かつ鋭敏に評価する新規技術の開発に成功しました。これにより、少なくとも24時間以上必要であった従来法に比べて、新規技術は2時間で判別可能となりました。本成果は、医薬品開発においてかなりのアドバンテージとなります。

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上記以外のテーマ一覧

・GAS5(lncRNA)の機能解明

→ GAS5のRNA分解速度に着目して、その機能を解明

・BRIC-Seq法の開発

→ ヒト細胞の全RNAの分解速度(半減期)をゲノムワイドに測定する手法の開発に成功

→ 半減期の短い(4時間未満)lncRNAが、機能性RNAである可能性が高いことを発見

→ 半減期の長い(12時間以上)lncRNAが、ハウスキーピング様のRNAである可能性が高いことを発見

・HCV RNA helicase阻害剤の探索

→ HCVのRNA helicase活性に着目したHCV治療候補薬を多数発見

・Universal QProbe法の開発

→ QProbe(蛍光消光プローブ)1種のみで、多種の遺伝子のReal-time PCRが可能

・ABC-PCR、ABC-LAMP法の開発

→ サンプルにPCR・LAMP反応阻害剤が大量に入っていても、正確に遺伝子量を測定可能

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